は病院が嫌いだ。医療にかかわっている人間も嫌いだ。だけど不思議なことに、雲中子だけはそれを許すことができる。それはきっと、彼の部屋に漂う独特の雰囲気のせいなのだろう。 「で、最近は?」 「んーまあぼちぼちかな。立ちくらみは相変わらずだけど、発作はほとんどなし」 「そう、それはよかった」 「雲中子さまがちゅうでもしてくれたらもっとよくなるのになあ〜」 そういうを完全に無視し、雲中子は黙々と治療の準備を始める。回転型のイスでくるくるとまわりながら、はその雲中子の姿を見ていた。365分の1。でも彼は、ゆっくりと回る世界に確かに存在している。 コポコポ、と雲中子が機械に液体を入れていく。そのほかにも、何か薬品を作っているのだろうか。この部屋は液体の音で溢れている。はそっと目を閉じた。この感覚をはよく知っている。けれど、彼女はいつもそれが何だったか思い出せないのだ。「お待たせ。準備できたから横になって」「はあい」結局今日もはそれを思い出せないまま、治療をスタートすることになった。 「今日はどのくらいで終わる?」 「最近は調子もいいみたいだから、今日は2時間くらいで終わりにするよ」 「じゃあそれが終わったらデートしようよー」 「それで、その後に少し検査をするから、3時間後くらいには帰れるんじゃないかな」 「私一度でいいから人間界にいってみたいなあ。どんなとこなのかしら。何を食べて、何の話をしてるのかとか知りたい。雲中子さまは私の魔法使いだから、雲中子さまと一緒なら人間界にいっても大丈夫だと思うの」 「はい、そこまで。さあ、もう横になってゆっくり休みなさい」 「…雲中子さまのけち」 そう一言だけ言って、はしぶしぶと目を閉じる。ピ、ピ、という機会音が聞こえ、自分の体が液体に沈んでゆくのを感じた。「はやくよくなるといいねえ」遠くで雲中子の声が聞こえる。薄れてゆく意識の中では思う。わかった、ここはお母さんのおなかの中に似ているのだ。 (願いに似た魔法/2006.12.10 なぎこ) |