「あなたの言うことは、結局は理想論です」 がそういうと、太公望は動作をとめ、後ろへ振り返った。の姿を確認し、太公望は困ったように笑った。 「何だおぬしか。こんな時間にどうした?」 「殷の聞太師の言うことだって、現実を見ているようで見ていない。彼は殷を第一に物事を考えているから結局のところ極論にすぎないです。結局あなた方の言う論理は、土台がしっかりしていなくて、あっさりくつがえってしまうものじゃないですか」 「おぬしは…いきなし現れたと思ったら。痛いところをつくのう」 太公望は笑ってイスごとからだをの方へと向ける。は何がおもしろいのかわからない、といって向かい合うようにして座った。他には物音ひとつしない静かで暗い夜。この世には、この部屋しか存在していないのではないかというほどの静けさだった。 「では、おぬしはどうしたいのだ?」 「私?」 「おぬしは、この国や仙人界をどうすればよいと思う?」 と太公望の視線が合う。お互いしばらく互いの姿をじっととらえたまま、口を開かなかった。ゆっくりと、先に口を開いたのはだ。 「わかりません。私は知っている物事があまりに少なすぎるので、極端な意見になってしまうと思います」 「おぬしは十分物知りだと思うぞ。そして、冷静に物事を分けていける。白黒はっきりつけすぎるのが欠点だがな」 「それに、私は客観的にとらえすぎて、その話の主体を理解していないところがあります。だから、あなたとここで議論をしたいと思ったのです」 「議論?」 「互いに意見交換をして、批評をしあう。別に答えは出さなくてもいいし、結果がどうだからといって実行にうつさなくてもいい。それを手伝ってはくれませんか?」 は先ほどから表情を一切変えていない。彼女は、人間ではなくて機械なのではと太公望は一瞬考えた。何事も冷静に判断し、陰と陽にわけていく。だから主観的な考えをすることがない。そのようにインプットされていないから。そこまでで、太公望はそれ以上考えるのをやめた。なんて馬鹿らしいのだろう。そして、ににっこりと微笑みかける。夜はまだまだ明けそうにはない。太公望に、断る理由はなかった。 (虹の始まり、夢の終わり/2006.11.11 なぎこ) |